第 3 章 「通訳実践報告」における問題点及びその分析
3.1 テ-マ選定における問題点及びその分析
通訳実践報告のテーマ選定については、通訳実践に基づいた通訳実践報告と模擬通訳に基づいた実践報告に分けられる。
表 7 のように、通訳実践に基づいた通訳実践報告は 82 本で、今回の通訳実践報告の 60.7%を占めている。そのうち、最も多いのは実習プロセスにおける通訳素材、即ち、立ち話の通訳、会議通訳、生産ラインにおける現場通訳などがすべて選ばれた報告である。それらは 29 本あり、通訳実践に基づいた通訳実践報告の 35.3%を占めている。その次は 20 本の会議通訳であり、24.4%を占めている。他にも、現場指導における随行通訳が 17 本あり、20.7%を占めている。残りの観光か生産ラインか年末会談を素材とされる報告はそれぞれ 10 本に届いていない。通訳実践に基づいた通訳実践報告はその多くが逐次通訳であるほか、会議通訳と年末会談通訳でそれぞれ 8 本と 1 本の同時通訳を含む。それらの状況を見てみると、通訳実践に基づいた通訳実践報告では、それらのテーマの選定は通訳としての仕事の実践項目・任務からのもので、通訳形態と通訳素材が適合していて、合理的である。
おわりに
本稿では 2016-2020 年の日本語通訳専攻 MTI 学位論文について調査した結果、次のようなことが分かった。
まず、ここ 5 年間の日本語通訳専攻 MTI 学位論文の類型については、2018 年までは、研究論文が一番多かったが、今は実践報告が一番多くなっていて、約 6 割を占めていることが分かった。
次に、MTI 日本語通訳実践報告の書き方については、枠組みはほとんど『基本要求』及び穆雷等(2012)の参考的テンプレートと一致しているが、下記のような問題点が存在している。(1)テーマの選定における問題は、主に模擬通訳実践報告に集中しており、具体的に言えば、通訳形態に対する認識が不足していることである。(2)模擬通訳実践報告においては、実践プロセスに関する情報が不足していることが少なくない。(3)ほとんどの通訳実践報告は問題意識が不足しており、問題分析においては、翻訳実践か通訳実践か区別できず、分析するための関連理論根拠にも欠けていることが多い。(4)理論応用の問題としては、事例分析において翻訳・通訳理論を無理に使用しており、その理論についての応用が簡単化、またはパターン化されていることや、先行研究で提示された理論が事例分析に活用されていないことなどが挙げられる。(5)経験総括においては、通訳実践に基づいた問題の解決策が提示されていないことが多い。
このように、MTI 学位論文の類型及び日本語通訳実践報告の枠組みでは規範性の問題が解決されたが、10 年前の英語翻訳・通訳専攻の MTI 学位論文に存在している主な問題点がここ五年間の MTI 日本語通訳実践報告にも存在していることが分かった。
参考文献(略)